笠井一男の水彩画エッセー
水彩画のツボ



INDEX

Vol.1 『水の多い色を何度重ねても鮮やかな色にはならない』
    "If you paint and pile up with faint color, it will never become vivid color."


Vol.2 『水彩画は結果が30分後に出る。待つことが大切。』
    "The result will come out in 30 min, so waiting is important for watercolor. "


    『色試しの紙は、いつも必死に描いた自分の絵より美しい。』
    "The color testing paper is always more beautiful than own painting."


Vol.3   『陰(影)を描くことで、光が現れる。』
      "If you want to express the light, You should take account to drawing the shadow. "


Vol.4  『質感は反射率で90%決まる』 
       "The material feeling can be expressed 90% by the reflectivity."

Vol.5  『桜は、花が先、枝は後。』
      "If you draw cherry blossoms, flower is ahead and trunk & branch are at the end."


Vol.6   『どう描くかよりどう描かないか。』
      "More important thing is how not to draw than how to draw. "


Vol.7   『デッサンとは、対象を知る最もいい方法。』
      "Dessin is the best way to understand the motif."


Vol.8   『陰にペインズグレイとインディゴだけは使わない。』
      "I never use payne's gray and indigo in the shade part."


Vol.9   『透明水彩の混ぜ方は三つ。混色、重色、垂らし込み。』
      "In watercolor, the way to mix color is only three. Mix, layer, and wet on wet."


今回から不定期で“水彩画のツボ”と題して、Twitterの「塾長の一言」を補足・解説するシリーズを続けてみたいと思います。
どこまで行けるか、息切れするまでやってみます。

Twitterはアルファベットも含め140字という制限の中で言いたいことをまとめるので、非常に言葉を選んで凝縮した表現をしなければなりません。
まるで、俳句や川流でもやっているようで、それはそれで楽しいし勉強にもなるんですが、ともすると説明不足で誤解を招く恐れもある。
ということで、補足を兼ねてここで説明をしようと思ったわけです。



水彩画のツボ vol.1


先ず今回は、

塾長の一言 『水の多い色を何度重ねても鮮やかな色にはならない』
"If you paint and pile up with faint color, it will never become vivid color."

これはいきなり水彩画の本質に迫る勢いのテーマです。

『水彩画は、最初薄く塗ってだんだん濃くしていくものだ。』と、たいへんな誤解をされている方が実に多い。
良く考えればわかることですが、一度刷り込まれるとなかなか向けられないのがこの種の誤認です。

同じチューブから出した絵の具でも水の量が違えば全く違う色なのですよ。

たとえば赤いバラを描く時、カーマインに水をたくさん混ぜて薄い赤を塗って、乾いてからまた水の多い赤を塗って、
また乾いたら水の多い赤を塗って… これではただ濁っていくだけです。

透明水彩絵の具は、どんな色も、たとえ濁った色も、白い紙に一回塗った時が一番きれいです。
紙から離れれば離れるほど汚れると思った方がいい。
そうです、私たちは純白のこの上なく美しい紙を汚しているだけなんですから、
できるだけ紙に近いところで仕事をした方がいいのではないでしょうか。

主役ほど鮮やかに輝いてほしいですよね?
だから、できれば主役はできるだけ紙に近いところで済ませたい。
つまり、触りたくない。
鮮やかな色は一気に塗ってあとは触らないで塗り残すということです。
薄い色からだんだん濃くするのではなく、です。



不透明絵の具とは全く逆の発想。
これをNEGATIVE PAINTINGというそうです。




水彩画のツボ vol.2


ハードな話だけでは気が重いので、今日の二弾目。

水彩画のツボ vol.2は、

●塾長の一言 『水彩画は結果が30分後に出る。待つことが大切。』
"The result will come out in 30 min, so waiting is important for watercolor. "

水彩画を描く人の多くが“濁る”ことを恐れています。
確かに透明水彩絵の具は一度濁ると取り返しがつきませんので、
その気持ちはよくわかります。

なぜ濁るのか、それがわかれば解決すると思います。
いくつかの理由が挙げられますが、
今回は“乾くまでの時間”について書いておきます。

皆さんもご存じと思いますが、
透明水彩絵の具は塗った時と乾いてからではまるで濃さが違います。
乾いたときにどのくらい薄くなるかの読みがとても大事です。

また、水たっぷりで塗った色がボケたり、にじんだり、シミになったりするのも、
30分くらい後になってからはっきりしてきます。

その間に触ってしまうと、
せっかく“自然の力”がせっせと仕事をしてくれているのを邪魔することになってしまいます。

われわれ人間ごときの“腕前”など、
“自然の力”の前では無力なことを自覚しなければいけないと思います。
先般のとても不幸な出来事をみても、
自然の力には抗うことができないのは明白です。

話は少し逸れますが、

●塾長の一言 『色試しの紙は、いつも必死に描いた自分の絵より美しい。』
"The color testing paper is always more beautiful than own painting."

という事実を検証すれば、おのずと答えは出てくると思うのですが…

人は、何かを“上手に”描き表そうとすると、
手が勝手に何度も修正作業を繰り返します。
反対に、色試しをする時は何かを“上手に”描き表そうとはしていないので、
修正作業はしないで放っておきますよね。
だから、きれいなのです。
私は、『色試しのように絵が描けたら…』といつも思います。

一度絵の具を紙に置いたら乾くまで触らないのがコツ。
あなたが触ると汚くなるのです、残念なことに。




水彩画のツボ Vol.3


塾長の一言 『陰(影)を描くことで、光が現れる。』
"If you want to express the light, You should take account to drawing the shadow. "

光そのものは見えません。

『え?霧の時、車のヘッドライトは見えますよ!』
『カーテンの隙間から朝日だって見えるでしょ!?』

いえ、それは光が霧状の水の粒や部屋の埃に当たって反射しているだけで、
光そのものが見えているわけではないのです。
灯台の光も光源の電球のフィラメントが見えているだけで、
ビームそのものが見えているわけではないのです。

漫画などでは便宜上“黄色い帯”として表したりしていますが、
ホコリも霧もなく、雨も降っていない空間を横切る光を見ることはできません。

では、フェルメールや印象派の画家たちはどうやってあの光を表現したか。
それは“陰”を描くことによって“光”を描くという、
一見遠回りに見える“正攻法”なのです。

まばゆい光を表すために、彼らは陰の表現を探求し、
光を再現することに可能にしました。

光があれば陰ができる。
陰を描くことで光を表す。

日本再建のキーワード。
“陰翳礼讃”にはそんな意味も加えておきたい。

 
                  A・wyeth 《ガニング・ロックス》 1966年



水彩画のツボ Vol.4


●塾長の一言 『質感は反射率で90%決まる』 
"The material feeling can be expressed 90% by the reflectivity."

「質感がうまく出せない」という方がいます。
私は「質感は反射率」と答えます。

異論もあるかとは思いますが、
私はあえて“反射率”で質感は表わせると断言します。

要は、表面のざらつき加減が“質感”を感じる90%を占めると思うからです。
さわり心地や重量感なども質感と言えますが、
絵に描くのは“見た感じ”しか手掛かりはありませんよね。

私は奈良飛鳥資料館に行った時、
亀石を叩いたらボコッという音がして、
樹脂製のレプリカであることを初めて知りました。
※確か本物は川原寺跡の辺りにあったと思います。
叩いて初めて分かったくらい良くできていたということですね。

つまり、もし叩かずにそれを描いていたら、
重々しい石の質感を出そうと四苦八苦していたはずです。
触らず見た目で判断する限り、石にしか見えないのですから。

見た目で判断する場合、一番注意してみるのは、
ツルッとしてるか、ザラッとしてるか、フワリとしているか、カチッとしてるか…
といった、“見た目の印象”ですね。
そして見た目の印象を決定づけるのが“反射率”なんです。

ということで、ツルッとしていれば周りのもがハッキリ映り、
ざらッとしていれば周りのものはボンヤリ映る。
だから、そう描けばおのずと質感が出るというわけです。




水彩画のツボ Vol.5


塾長の一言 『桜は、花が先、枝は後。』
"If you draw cherry blossoms, flower is ahead and trunk & branch are at the end."

木を描く時も、同じです。

なぜか。
それは、“透明水彩”だからです。

透明水彩は、
@ 一度暗くなったら明るくできない。
A 一度濁ったら鮮やかにできない。

だから、
@.明るいところを先に描く。
A.鮮やかなところも先に描く。
そして、それを最後まで塗り残す。

ということだと思います。

幹や枝を先に描いてしまうと、その上に明るい色の花や葉を描くことができません。
先ず花や葉を描いておいて、
その隙間から見える幹や枝を暗い色で後から入れていくと、
豊かな木々の様子が描けるというわけです。

水彩動画塾Vol.10 『桜を描く手順について』更新しました。
実演していますので、ご参照ください。




水彩画のツボ Vol.6

塾長の一言 『どう描くかよりどう描かないか。』
"More important thing is how not to draw than how to draw. "

物を観ながら絵を描くことは誰にでもできます。
対象を良く観て、見えるがままに素直に描き続ければ、
多少のうまい下手はあるにしても、描けます。
それは、特に驚くことではないと思います。

『それは先生だからそう言えるけど、実際は無理。』という返事が聞こえてきそうですが、
みなさん、だれでも子供のころは絵を描いていたではないですか。
※いつから描かなくなったのか。なぜ描かなくなったのか。
だから、描こうとすれば今でもできるのです。

なぜなら、物を観て描くということは写し取るだけだからです。
それは能動的なアクティビティがなくても、ただ写せばいいのだから、
入ってくる情報を受け入れるだけでいいのです。

反対に、描かないという行為はどうでしょう。
見えているのに描かない。
これはある意味で“拒否”することですから、
かなりエネルギーのいることですし、
それなりの理由とそれを実行する強い意志が必要です。

描かないこと。さらに“うまく”描かないこと。
水彩画の場合、描き過ぎで悩む方が多いのはどこでも共通していることですね。
その解決策のヒントとして、積極的に、効果的に、
“うまく”描かないことをお勧めします。
本当に難しいことだと思いますが。

私も常々試しては反省し、反省してはまた試しの連続ですので。




水彩画のツボ vol.7

塾長の一言 『デッサンとは、対象を知る最もいい方法。』
"Dessin is the best way to understand the motif."

今回は、デッサンについて書いてみます。

時々、『絵をやるなら、先ずデッサン!』 という人がいます。
本当にそうなんでしょうか。
もちろん正確な描写をするのであればデッサンは必須です。
でも、絵は生真面目な写実だけではありません。
形に捉われず、自由に描きたいと思う人の方が多いくらいでしょう?

少なくとも私は、『本当に必要と思った時に勉強すべき。』と、
生徒さんに言っています。

そもそもデッサンとは何なのでしょう。
私は、『モチーフを観察し、本質を探るのに最も適した方法』
と認識しています。
簡単に言うと、“描き方”の勉強ではなく、
“見方”や“考え方”の勉強ということだと思います。

“描き方”だと思ってデッサンの勉強を始めると、
先生は何も教えてくれないで、“見方”の話ばかりだったりして、
きっと辛くなってしまうでしょうね。

最初から、“見方”の勉強であることを肝に銘じてスタートすれば、
おのずとスンナリ“修業”の道に入れると思います。
辛くて楽しい“修業の道”です。

水彩画を描いているが、どうも形が合わなくてもどかしい。
やっぱりデッサン力がないとだめだと痛感した時こそ、
辛くて楽しい“修業”をやってみたらいいと思います。

いつ始めても遅くはないと思いますし、
物を見る基本の勉強ですから、やれば水彩画にも必ず効果は表れると思います。
ただ、何度も言いますが、形式的に始めるのではなく、
“必要”に迫られて始めるのが健康的だと思います。




水彩画のツボ vol.8

塾長の一言 『陰にペインズグレイとインディゴだけは使わない。』
"I never use payne's gray and indigo in the shade part."


私は陰(影)は一番カラフルで楽しい部分だと思っています。
なので、せっかくの“おいしい”陰を、
ペインズグレイやインディゴだけで済ましている人を見かけると、
『あぁ、もったいない…』と思ってしまいます。

光の当たった部分は色も形もハッキリ見えるので、
視覚的にも心情的にもあまり突飛な色は使えませんよね。

でも、陰の中はどうでしょう?
基本的に光が足りないのが陰の中ですから、よく見えないということです。
形も色もよく見えない。
なのに無理してよく見えたかのように描く必要はありません。
見えないものは見えないように書くのが自然です。
しかも、見えないんだから変えたって消したってだいじょうぶ。
陰の中の“曖昧さ”を自由に遊ぶことで、
“雰囲気”が生まれてくるように思います。

陰の色をペインズグレイやいインディゴ、その他の色で決めつけていると、
それで安心してしまってもう二度と影の中にどんな色があるか、
陰をどんな色にして遊ぼうかといった“楽しみ”を放棄することになってしまいます。
こんなにもったいないことはないですよね。

私は陰の中で遊ぶことは、透明水彩画の楽しみの半分を占めるとさえ思っています。
もう一度陰の中をよ〜く観察してみてください。
きっと何か発見やいいアイデアが見つかると思います。



水彩画のツボ vol.9

●塾長の一言 『透明水彩の混ぜ方は三つ。混色、重色、垂らし込み。』
″In watercolor, the way to mix color is only three. Mix, layer, and wet on wet.″


透明水彩絵の具はほかの絵の具と違うところがたくさんあります。
そのひとつは混ぜ方の違い。

私は、透明水彩絵の具の混ぜ方は3つしかないと思っています。

1.混色; ご存じのとおり、パレット上でこねて混ぜます。
2.重色; 一度塗って完全に乾いたら次の色を重ねます。
3. ウェット・オン・ウェット; 一度塗って濡れているうちに次の色を加えます。
以上。

2と3が特徴的な混ぜ方ですね。
特に3のウェット・オン・ウェットは透明水彩ならではの、
にじみやボカシの美しさを引き出す上で、
最重要スキルと言ってもいいと思います。

このほかに透明水彩絵の具の混ぜ方はありますか?

ここで一番やってはいけないのは、
A.生乾きをこね回すこと。
B.一度乾いているのに筆で擦って溶かすこと。
C.にじみやボカシを筆(腕)で作ろうとすること。

もしあなたが“描きすぎで濁る傾向”があるとしたら、
たぶん、この3点のうち2点はやっていると思います。
これさえやらずに、筆数を抑えて、自然の力に敬意を表して描けば、
濁りは解消するでしょう


塾長の(えらそうな)一言